放浪カモメ
「はあ、はぁ。ところで、あんちゃん何でこんなとこで寝てんのさ。まさかオレ達と一緒なわけねぇよな?」

ようやく問答を終えたらしい二人は、何故か座って話をしていた。

「はぁ、はあ。いや、あの何ていうかその……遠くへ行きたいなって。」

下を俯きながらそう言った鴨居。

おじさんは赤くなった鼻をかいて言う。

「あんちゃんよ。もう少し気抜いてみたらどうだ?ほら、オレみてぇなのに財布盗られても気にしねぇくらいおおらかによ。」

「……つかアンタ財布盗ろうとしてたんかい。」

「いや、それは冗談じゃねぇか。とにかくよ若ぇのに何だか肩がこっちまってるように見えるぜ?」

ポチャンと音を立て、水面が同心円を描きながら揺れた。

その波を無意識に目で追っていると何だか虚しさを感じた。

それは今の現状になのか、それとも何かに焦っている自分自身になのか。

「おじさんは何時からここにいるんですか?」

「リストラされて、母ちゃんに逃げられてからだから……3年くれぇ前か?」

鴨居は聞いてはいけないことを聞いた気がして、少しだけ後悔した。

けれどおじさんの顔には目には、恨みや悲しみそのどちらも感じられなかった。

「寂しくないんですか?」

鴨居は自分でも何故だかは分からないが、口から次々と質問が出てきた。

おじさんは、若者と話をするのが嬉しいのか、はにかんだ照れくさそうな笑顔で答えてくれる。

「そりゃ寂しい時だってあるさ。でもこれがよツラいことばっかってわけでもねぇんだな。ほれ。」

「ほれ」と言っておじさんが指差した先では、二人のおじさんが朝からだと言うのにベンチで缶ビールを片手に語り合っていた。

「あいつらはオレと一緒。妻も子供にも逃げられちまったヤツらよ。だがよ、そんなヤツらだって集まりゃ酒が飲める。酒が飲めりゃ話もできるし笑顔にだってなれる。」

みすぼらしいのに誇らしげなその顔が鴨居にはやけに輝いて見えた。
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