放浪カモメ
「オレはよ。こう思うね。オレらみたいに路頭に迷おうと、社会で認められようと、恋人がいようと、家族がいようと。人間てやつはよ嫌でも、悲しくもなるし嬉しくもなるんだよ。」
朝日が誇らしげに高く上がる。
いつの間にか鴨居を覆っていた高架の影は鴨居の眼の先へと移っていた。
「だからよ、おめぇさんそんなつまらなそうな顔しなさんな。」
「……えっ?」
見透かされた様で恥ずかしかった。
でも、それ以上に、自分の気持ちを分かってもらえた気がして嬉しかった。
「家族もいる。大学にも行ってる。こうして旅をしてる。……大丈夫だ自信持て、おめぇさんはこんなにも楽しいことしてるじゃねぇか。あとは肩の力抜いて"楽しいこと"を"楽しむ"だけだ。な?」
おじさんは肩をバンと叩いて豪快な笑顔を見せた。
そしてすぐに、おじさんはベンチで語り合う二人に呼ばれて行ってしまった。
「楽しいことをすればそれだけで楽しくなるのだと思ってた……そうだよな。楽しいことだって楽しまなけりゃ楽しくなんかなれないんだよな。」
それからしばらく鴨居は川面を眺めていた。
時折、水面が不安定に揺れた。
まるで自分の気持ちの様だ、と鴨居は笑った。