放浪カモメ
「久しぶりね。少し疲れてるような声だけれど大丈夫?」
「はい。仕事が一段落したところでしたので。お義母さまもお変わりないですか?」
佐野はいつもは見せない、柔らかい表情で電話越しの相手に何度も頷いていた。
「それでね、今日電話したのはあなたに、とっても良い縁談があったからなの。母親でもないのにお節介と思われてしまうかもしれないけれど……」
正喜の母、和子(かずこ)は、佐野が彼女のことを実の母のように思っているように、佐野のことを実の娘のように思っていた。
「ありがたいお話ですけれど、私はまだ……」
「正喜のことが忘れられないのね?」
ほんの数秒間だけ和子は佐野の返答を待った。
しかし分かっていた通りに佐野は黙ってしまう。
「正喜は幸せ者ね。明美ちゃんみたいな綺麗で誠実な人にこんなにも好かれて。」
「私はそんな……」
正喜と言う言葉を聞くたびに佐野の心臓が張り裂けそうになる。
「でも、正喜はダメな男ね。」
急に和子は真面目な声でそう言い放った。
「お義母さま……?」
「良い男って、何よりも好きな人を思うことができる人だと思うの。今、明美ちゃんは苦しんでる。他の男性を好きになって幸せになることを拒んでしまっている。」
「お義母さま、それは正喜さんのせいじゃな……」
正喜のせいじゃない。と言い掛けて佐野は言葉を飲み込んだ。
電話越しに和子が泣いているのが聞こえたのだった。
「あのバカ息子。明美ちゃんを一人にさせただけじゃなく。こんな風に辛い思いをさせるなんて……」
和子の泣き声が佐野の胸を痛いほどに突く。
「はい。仕事が一段落したところでしたので。お義母さまもお変わりないですか?」
佐野はいつもは見せない、柔らかい表情で電話越しの相手に何度も頷いていた。
「それでね、今日電話したのはあなたに、とっても良い縁談があったからなの。母親でもないのにお節介と思われてしまうかもしれないけれど……」
正喜の母、和子(かずこ)は、佐野が彼女のことを実の母のように思っているように、佐野のことを実の娘のように思っていた。
「ありがたいお話ですけれど、私はまだ……」
「正喜のことが忘れられないのね?」
ほんの数秒間だけ和子は佐野の返答を待った。
しかし分かっていた通りに佐野は黙ってしまう。
「正喜は幸せ者ね。明美ちゃんみたいな綺麗で誠実な人にこんなにも好かれて。」
「私はそんな……」
正喜と言う言葉を聞くたびに佐野の心臓が張り裂けそうになる。
「でも、正喜はダメな男ね。」
急に和子は真面目な声でそう言い放った。
「お義母さま……?」
「良い男って、何よりも好きな人を思うことができる人だと思うの。今、明美ちゃんは苦しんでる。他の男性を好きになって幸せになることを拒んでしまっている。」
「お義母さま、それは正喜さんのせいじゃな……」
正喜のせいじゃない。と言い掛けて佐野は言葉を飲み込んだ。
電話越しに和子が泣いているのが聞こえたのだった。
「あのバカ息子。明美ちゃんを一人にさせただけじゃなく。こんな風に辛い思いをさせるなんて……」
和子の泣き声が佐野の胸を痛いほどに突く。