放浪カモメ
『トゥルルルル……トゥルルルル……』
杉宮は後ろめたさを感じる自分の心を隠せないでいた。
言い得ぬ不安ですぐにでも電話を切ってしまいたかった。
しると四回ほどコールして電話がつながった。
「もしもし。立石ですけど?」
「…………あれ?悠斗か?」
電話に出たのは弟の悠斗で何故だか安堵をもらしてしまっていた。
悠斗はしばらく、聞いたことのある懐かしい声を記憶でたどった。
「もしかして、要くん?えらい久しぶりやんねぇ。元気しよった?」
「ああ。悠斗も相変わらず元気そうだな。」
もうすぐ二十歳になるというのに、小学生のようにはしゃぐ悠斗の声を聞いて、杉宮は聞こえないように笑う。
「電話なんかしてくるの半年ぶりくらいやろぉ?姉ぇちゃんほんまに淋しくしててんやで分かっとんの?」
杉宮は苦笑いをしながら、「すまん」と謝った。
「悠美はまだ帰ってきてないのか?」
「うん、今買い物行ってるみたいやわ。あいつ携帯持ってないから連絡取るんも大変やなぁ。」
悠美は驚く程の機械音痴で、電子機器は悉く扱うことができない。
それどころか奇想天外な発想で見事壊してくれるものだから、悠美は携帯すら持っていなかったのだ。
「ああ。お互い大学生にもなったのに家電てどういうことだよな。はは。」
しばらく会話をしていると、悠太がほんの少し寂しそうに言うのだった。
「要くん、随分標準語が板に付いてきたんやね。もう大阪離れて四年目やもんな、当たり前か……」