放浪カモメ
受話器を置いてからも悠美はしばらく放心状態で電話を見つめていた。
いや、正確には、先程までつながっていた電話の相手を。だろうか。
悠太はそっと隣で見ていたが、低い声で切り出す。
「……どうすん?」
「えっ……?」
悠美はまた目一杯に涙を溜めたていた。
「せやから!!もしも、要くんにあっちで好きな人が出来てしもたとしたら、どうすんねん?て言うてんねん。」
悠美はそう言った悠太を儚げな表情をしながら見る。
瞬きもしていないのに涙が頬を伝っていった。
「そんな……だって、要ちゃん、待っとってって。待っとってってそう言うたんやもん!!」
悠太は何も言わずに震える姉を見つめていた。
「待っとって。って……」
手で顔を覆いながら悠美は声を出して泣く。
「お姉ぇ、千葉行ってき。今すぐ千葉行って要くんに直接聞いてきぃや。」
そう言うと悠太は自分の財布から三万円ほど取り出して悠美に手渡した。
「悠太……?」
「やるわけやないで。ちゃんと戻ってきたら返しや?」
「うん……ありがと。」
悠美はすぐに身支度をすると新幹線に乗るために、新大阪駅へと向かった。
走りながら悠美は涙を拭いた。
不安を蹴飛ばす様に、力強く進んでいくのだった。
「要ちゃん……ウチ嫌やで?こんなん絶対に嫌やからな。」