放浪カモメ

鴨居が自転車で飛び出してからまるまる二週間が経過した。

真夏の日差しはどんどん強くなる。

茶色くなった皮膚は毎日のようにペリペリと音を立てて剥けていく。

陽射しを遮る駅のベンチで昼食を取っていた鴨居。

ボロボロになった服を変な目で見られても全く動じないほどに彼は強くなっていた。

「よし。今日も上(北)を目指して行きますか。」

そう言って鴨居は、公園などで汲んだペットボトルに入れた水を、グビッと音を立てて飲み込んだ。




なんだかんだで普通な生活をしてきた鴨居である。

一人旅も初めて。ここまで本格的な野宿だって初めて。

もちろん公園で持参したペットボトルに水を汲んだことなどなかったが、今となってはお手のものだった。

人力で進む旅では水の補給は欠かせないこと。

公園や民家、時には学校に忍び込んだりと水を得るためなら手段を選んでいられない。

コンビニなどでミネラルウォーターが売っているが、一日に2リットル、3リットルと補給するわけだから一々買っていたら資金がいくらあっても足りないのだ。

そんな旅を重ね少しは自信も付き始めても良い頃合いなのだが、鴨居の心境にはさほどの変化は見られない。

「……暑いなぁ。」





いつも遠くに聞こえていた声。

『僕はここだよ――』

自転車で走る度に少しずつ

ほんの少しなんだけれど――


近づいている。

そんな気がしていたんだ。




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