放浪カモメ

ソガに渡された道具は自転車のパンク修理キットだった。

専用の接着剤に、チューブを取り外すための小さなコテ。黒いゴムにオレンジ色の線の入ったシール。

それらの使い方を教わりながらパンクの修理をした。

「いやー、まさかパンク修理もできないのに旅するヤツがいるとは思わなかったよ。バカだなー君。」

ソガは鴨居の背中をバシバシと叩きながら見た目どおり豪快に笑った。

「パンクしてんのは一目見て分かったから、パンク修理キット切らしちゃったんだろうな。って思って声かけたら、まさかねぇ……」

そう言ってまたソガは豪快に笑う。

笑われているのに何故だろうか鴨居は恥ずかしくない。それどころか少し嬉しかった。

「ソガさんはどうして旅をしているんですか?」

パンクの修理を丁寧にソガが教えたために、日が暮れ始めていたので。

二人は少しだけ進んだ所で、今日の寝床を確保した。

「んー。旅の理由ねぇ……まぁ、なんだ自転車で走るのが楽しいからじゃねぇかな?オレの場合は。」

予想どおりの豪快な答えに鴨居は思わず吹き出した。

「あっ、このヤロ笑いやがったな。……それじゃあカモは何で旅なんかしてんだ?」

「お、オレは……」

鴨居はソガだったら、理由を聞いても豪快に笑い飛ばしてくれると思って、正直に話した。




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