放浪カモメ
「オレ何処に居ても、誰と居ても、自分がそこに居ないような気がするんです。」
知り合って間もない男に何を真面目に語っているのだろう。と始めのうちは思った鴨居だったが。
ソガのゆるやかで大きな雰囲気にそんな気持ちすらも、飲み込まれていくようだった。
「自分は何処に居るのか?何処へ向かうのか?そんなことが少しでも分かったらな……って思って。」
「居場所探しの旅ってやつか?」
鴨居はソガから分けてもらった乾パンを少しかじる。
「居場所探しって言うか……オレけっこう昔から何処かで自分を呼んでいる声が聞こえるんです。それが自分の声な気がして、遠くから聞こえるから遠くへ行こうって。」
話し終えた鴨居は乾パンをかじりながら、ソガの豪快な笑い声と加減を知らない背中を叩く手を待った。
「……そうか。」
しかし聞こえてきたのはソガに似合わない静かで冷静な声だった。
「分かる気がするよ。遠くで自分を呼ぶ声がするって。俺もそんな時があったから、分かる。」
ソガは何度も低い声で「分かるよ」と言った。