放浪カモメ
小屋の中はやはりと言うべきだろうか、少ない家具すらもボロボロに廃れてしまっていた。

ずっと長くから使い込まれているのだろう。

そのサビすらも厳かに見えてしまう。

和尚は鴨居に座りなさいと手で合図をする。


鴨居はお寺だからなのか、用意してくれた座布団の上で正座をして座った。

「おや?ははは。足を崩しなさい、何も経を唱えようというわけではないのですから。」

「あ、はい。」

そう言われて鴨居は顔を赤くしながら、足を崩して座った。

「ここはよく自転車やバイクで旅をする人が通りかかるのですよ。この前は身体が大きくて、とても大胆に笑う男の方でした。」

「………(ソガさんだ)。」

見るからに優しそうな笑顔に、深く刻まれた笑いじわ。

どことなく亡くなってしまった田舎の祖父に似ていると、鴨居は思った。

「どこから来られたのですか?」

「あ、千葉県からです。」
和尚は茶一色のきゅうすに茶を入れて、二つの茶碗を差し出す。

「千葉。それはそれは遠い所からわざわざ。」

熱いお茶が湯気をたてて部屋の中を横切っていく。

それを見ていたら今までの疲れがどっと押し寄せてきたのか、鴨居は深く眠りについた。


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