放浪カモメ
お寺の朝は早い。
本堂の掃除に始まり、敷地内の掃除。
経を唱えて、道を学ぶ。
「って思ってたのに……」
六時に起きた鴨居。
夜になったら寝て、朝が来たら起きるという生活をしてきたため目覚めがよい。
「あ、和尚さんまだ寝てるし……」
イメージとのギャップに鴨居は思わず吹き出す。
そして和尚を起こさないように静かに小屋を出ると、イメージ通りに行動をしてみた。
『ミーン、ミンミン、ミーン。』
早朝だと言うのにむせ返るほど熱い日差し。
耳をつんざくようなセミの鳴き声。
木造の床から匂う湿った空気。
『ドタドタドタ。。』
慣れない床掃除でお世辞にも軽快とは言えない音を立て鴨居は床をみがいた。
一宿の礼と言うのは大げさかもしれないが、これが鴨居なりの感謝の気持ちだったのだ。
「おしょうさーん。床掃除終わりましたぁ。そろそろ起きてくださいよ。」
そう叫んでみたけれども返事がない。
少し返事を待っていたのだが、一向に返事はなく。
鴨居は床にあぐらをかいて座り、目の前に広がる雑木林を見渡した。
「おしょうさん出かけちゃったのかな……?」
真夏の暑い日差しの中。
北風だったのだろう心地よい冷たい風が吹く。
長旅で伸びてしまった鴨居の黒髪を風がフワッと撫でると――
「お、掃除してくれてたんだねご苦労様。」
いつの間にか仏堂から和尚は顔を出していた。
その和尚の大きくはない背中の後ろに一人の少女が立っていることに鴨居は気が付いた。