放浪カモメ
「悠美が……何で?」
久しぶりの恋人との再会だと言うのに杉宮の心は弾まない。
電話越しでも、それは悠太にも伝わってしまっていた。
「何でって……そんなことも言わな分からへんの?」
杉宮は頭では分かっていた。
だけど、何かがそれを拒む。
「要くん!?」
そうだ身体でも心でも分かっている。
「悠太、オレどうしたらええ?」
喜びで弾む心を何かが押さえ付ける。
すぐにでも迎えに行かなければいけないと、走りだそうとする足を何かが地面にはりつけにする。
杉宮の情けない声に、悠太は憤りを隠せなかった。
「要くん最低や。んなこと他人に聞かな分からへんのか?」
「…………。」
杉宮は押し黙り、悠太の罵倒を待つ。
「要くんに好きな人ができてしもたんなら、仕方ない。本当にそう思っとった。今の今までは。」
悠太の言葉一つ一つがすんなりと杉宮の心を貫く。
「もし中途半端な気持ちで姉貴のこと泣かせおったら、次はオレが会いに行ってアンタしばき倒す。」
そう言って悠太は返答する時間も与えずに受話器を置いた。
『ポツ…ポツ…ポツポツ…ザーーッ』
いつの間にか空を覆っていた雨雲から生ぬるい雫が街に散った。
土砂降りの雨に視界を遮られながら、杉宮は傘もささずに走りだすのだった。