放浪カモメ
「あ、うん。それならここを真っすぐ行って山手線の確か……4番ホームじゃなかったかな。」
五人目のトライでようやく足を止めてくれたのは、改札の手前で誰かを待っていた若いサラリーマンだった。
悠美は今まで無視され続けていた悲しみを晴らしてくれたそのサラリーマンに、ありったけの笑顔と深く頭を下げお礼をした。
そして言われた通りに構内を歩いていく。
すると曲がり角で広告に気を取られた悠美の横を杉宮が走り抜けたのだが二人とも気付つかない。
杉宮は立ち止まることなく新幹線降り場の改札を目指していった。
方向音痴な悠美ならば必ず誰かに道を聞くはずだ、と確信していたのだ。
「すいません、大阪弁で話す髪の長い子が道を尋ねに来たりしませんでしたか?」
駅員は1日だけでも、数えきれない程の質問に答えている。
その中のたった一人を思い出してくれと言ったところで本来ならば不可能に近いのだが。
悠美の場合は違った。
生まれも育ちも大阪の、生粋の大阪人でルックスも良く、若いのに一人だったために悠美の印象は濃かった。
「ああ、そんな子居ましたね。千葉までの路線をお教えしたらそっちに向かっていかれましたよ。」
「えっ……あ、そうですか。ありがとうございます。」
杉宮の中で一つの疑問が浮かび上がる。
(くそっ!!どこかですれ違ったのか……?)
その頃、悠美は本来乗るべきホームとは逆のホームで、透明なビニル傘を片手に電車を待っていた。