放浪カモメ
「えっと……山手線て書いてあるし、これでええんよね?」
5番線に到着した電車を見て悠美は何故だかホッとした様な表情だ。
散々迷い、何度も知らない人に尋ね、心身共に疲れ切っていたのだろう。
何の躊躇(ちゅうちょ)もなく乗り込もうとした瞬間。
他のホームで発着する電車の音の中に微かな声を聞いた。
「名前を呼ばれた気がしたけど、気のせいやんね。」
一瞬止まった悠美だったがまたゆっくりと足を踏みだす。
その瞬間。
「悠美ぃーーーーっ!!」
今度ははっきりと聞こえた。
乗り込んだ電車の窓から辺りを見渡すと、向かい側のホームに杉宮を見つける。
「えっ……要ちゃん。何で?」
『5番線の電車発車いたします。』
「どうしよ……降りな。降ります空けてください。」
いつの間にか満員になった車両から抜け出そうとする悠美。
「どいてや……お願いやから、早く……」
『プルルルルル…プシューーッ…』