放浪カモメ
その日の夜。
雲静はサトばぁを始め、旅館で働くスタッフ全てを大広間に集めた。
「今朝の電話を見てた人の中には感付きはった人もおるやろけど……ちゃんと私の口から言わせてもらいたい。」
五十畳はあるだろうか。広い座敷の部屋だけに明かりが灯っている。
「最近はしみせや言うても客は減るばかり、増え続けとるビジネスホテルに客を取られ経営も困難や。それはウチ、半田の旅館かて同じ。」
雲静が話し始めるとサトばぁは一旦席を外し、熱い茶とお茶請けを人数分用意した。
「みんなももう察しは付いてはると思う。ウチは今経営困難な状態や、知り合いのツテ使ぉて坂田はんに多額の資金を借りてはいたものの、今月からは坂田はんの会社も難しい状況になり、一時でも早く返済してほしいとのことやった。」
「それじゃあ、まさか。」
若い従業員の声に雲静は静かに首を振った。
その姿にサトばぁの次に古株の仲居が涙を流す。
「何年も前からこうなることは予想出来てた。いや、本来やったらもっと早くにこうなっていたのかもしれへんな。」
涙を堪えていた他の従業員達も声を出し泣き出す。
その中でも雲静とサトばぁだけは気丈に振る舞っていた。
「ここまで出来たのも一概にサトばぁ……織里(おさと)さんを始め私を支え続けてきてくれはった皆のおかげや。ありがとう。」
雲静は深々とまるで土下座の様に頭を下げる。