放浪カモメ
しばらく静かな空気の中で二人は飲み物を口にしていた。
真夏の熱い日ざしの中ゆるやかに冷たい心地の良い風が二人の間を吹き抜ける。
メグの黒いサラサラとした髪の毛をふわりと宙に舞わせた風は、鴨居の元に甘い匂いを届けた。
「カモはどうして旅をしているの?」
メグにカモと呼ばれる度に鴨居の心臓が弾む。
「オレは何もしてない人生が、自分が嫌で、何かをしたいって願うだけの自分を変えたくて……かな。メグちゃんはどうして?」
聞き返されたメグ。
「私は……逃げたの。」
色々な事情がありそうなのは始めから予想し得ていた。
だから、どんな回答でも鴨居は驚かないで聞いてあげられると思っていた。
しかし、その考えが自惚れだったことに気付く。
「……逃げた?」
「そう、逃げたの……」
もっと若い子の愚痴を想像していたのかもしれない。
もしかしたら、遠くへ行きたかったという希望の回答を期待したのかもしれない。
しかしメグの口からの返答は鴨居の考えとは全く違うものだった。
たった一言に鴨居には想像すらできない辛い過去があるのだと思い知らされてしまったのだった。