放浪カモメ
「あけみ、ゴメン少し待ってて。」
小降りの雨の中、佐野とマサキが佐野の家に向かい傘を差しながら歩いていた。
あと少しで佐野の家に着く、曲がり角に差し掛かった時マサキはそう言って家とは違う方向に駆け出した。
「え、ちょっとマサキさん!?」
急いで佐野もマサキを追い掛ける。
ピシャピシャと跳ね上がる泥水が、精一杯の彼女のお洒落をしたワンピースを汚している。
マサキはすぐそこでしゃがみこんでいた。
佐野がゆっくりと、マサキの様子を見るとそこには。
「ミャア。ミャー。」
段ボールの中で寒そうに鳴く小さな猫。
マサキはその段ボールを守るように傘をたてると、ハンカチを取出し猫の身体を拭いてあげた。
「ゴメンな。飼ってやることはできないんだ。」
本当に。本当に悲しそうな顔をしてマサキは、抱き上げていた猫をまた段ボールに戻した。
「ゴメン、さぁ行こうか、あけみ。」
マサキが振り返り歩きだす。
「あ!待ってマサキさん。」
「なに?」
「あの子、付いてきちゃってるわよ。」
小さな猫がマサキの後を懸命に追い掛ける。
「あらら……まいったなぁ。また大家さんに怒られちゃうよ。」
「ホント、動物にも誰からもマサキさんは好かれちゃうのね。」
そう言って佐野は猫を抱き上げマサキに笑いかけた。