放浪カモメ
『ザーーーッ………』
雨音が意識を遠退かせる。
忘れていた記憶や感情が、頭の中を過って、涙として現実に還る。
「マサキさん……」
「ミャーッ。」
「えっ!?」
どこからともなく聞えた猫の泣き声に、佐野は走りだした。
角を曲がり、今までに通ったことの無かった小道に入ったのに、佐野の足は微塵も迷うことなく走り続ける。
「ミャア。」
段ボールの中に入れられた子猫。
さっきの思い出が、まるでデジャブの様に感じた。
しかし、佐野の目の前にデジャブだとしたら居るべきはずの人が居ない。
「ミャア……」
段ボールをよじのぼり、子猫が佐野の元に寄り添う。
「心配してくれてるんだね、ありがとう。ありがとう……ごめんね。」
背中を優しく撫でると、猫は身をよじり、佐野の雨で冷えきった手を優しく舐めた。