放浪カモメ
ようやく泣き止んだ杉宮は佐野の椅子に座り、温かいコーヒーを飲んでいる。

佐野はそんな杉宮を見ながら、窓際にたっている。

「じゃあ、先生は一度も子供が欲しいと思ったことはないんですか?」

「ん?…あるよ。」

窓に写った佐野は笑っていた。それがすごく綺麗で杉宮は見とれる。

雨粒がぶつかっては窓を伝う。

窓をポロポロと伝う雨粒が、まるでそこに写った佐野の涙の様で、なぜか悲しかった。


「私には結婚を考えていた人が居たから。」

その言葉に杉宮の胸がグッと軋んだ。

「豪快で人懐っこくて、優しくて、この人となら一緒に居たいと思えた唯一の人だった。」

その人物を思い出しているのだろうか、佐野は暗い、まるで人の曖昧な記憶のような空を見上げている。

「その人の子供が欲しいと思えたんですね?」

柔らかな表情で佐野は頷くと、また一雫の涙がこぼれる。

すると、次から次へと一雫、一雫。

とめどなく涙が頬を伝っていく。

「なんで……なんで私を置いて逝っちゃったのよマサキ。ねぇ、どうして…」

顔を手で覆う佐野だが、涙は遮られることなく床へと落ちていく。

小さな肩が揺れる。

儚い望みが零れては散る。

崩れ落ちた佐野を杉宮は力一杯に抱き締めた。
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