放浪カモメ
披露宴までの時間は驚くほどに長く感じた。

なぜか分からないが緊張してしまった鴨居は何度もトイレに入った。

そこで何回も一緒になった小太りな男性。

きっとその人も緊張してるんだろうなと、少しだけ可笑しくなった。

人柄がよさそうなその人が何故だか妙に印象に残った。



「ご来賓の皆様、披露宴の準備が整いましたので中へどうぞ。」


そう促されて次々と人が部屋の中へと入っていく。

大広間に用意された綺麗な会場に、中に入っていく人達から賞賛の声が上がった。

なんでもウエディングプランナーに任せた披露宴らしく、凝りにこったその会場は確かに素晴らしかった。

でも、鴨居には佐野がこんなに凝ったことをするとは思えなくて、きっと新郎がマメな人なのだろうと一人納得していた。

「えっと、席は……あ、梓さんだ。」

座席表を見ながら辺りを見回すと梓の姿を見つけた。

「あら、あなたは受け付けの時の。」

鴨居に気付いた梓がそう声をかけてくれた。

席にはまだもう一人の姿はない。

「ごめんなさいね、主人たら披露宴始まるっていうのにまだ新婦さんの所で話し込んじゃっているみたいで。」

「え、あ。オレすっかり先生に挨拶するの忘れてた!!どうしよう、怒られるー。」

佐野に挨拶するのを忘れていたと気付いた鴨居の様子を見て、梓はくすりと笑った。

「鴨居くんて本当に聞いた通りの方なのね。」

口を手で隠して上品に笑う梓。

「え、聞いたって誰からですか?」

そう聞く鴨居に梓は驚いた。

「誰からってそれは……」




すたすたと鴨居と梓のいる席に近づいてくる一人の男。

その男は何の前触れもなしに鴨居の首に腕を絡める。

「よっ、カモ。久しぶり。」
現れたその男に鴨居の心臓は止まりそうなくらいに、強く弾んだ。


「杉宮、先輩……」




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