放浪カモメ
豪華な扉がゆっくりと開かれる。

「カモ、あけみちゃんとこ行った?」

暗闇で拍手が行き交う中、杉宮が話し掛ける。

「いや、オレすっかり忘れてて。っていうか正直そんなこと頭に無かったっていうか。」

「はは、お前らしいよ。」

扉は少しもったえつけるかの様にゆっくりと、ゆっくりと開いていく。

「あけみちゃん……すげぇ綺麗だったぜ。」

何だろう杉宮のその言葉には淋しさみたいなものが含まれていて、鴨居は杉宮がこの暗闇の中で泣いているんじゃないのかと思った。

「二人とも、ほら出てきましたよ。」

梓の言葉に、杉宮と鴨居はスポットライトの先を見た。

純白のウエディングドレスに身を包んだ佐野は、本当に綺麗で思わず見とれてしまう。

しかしそんな佐野に似付かわしくない、小太りの新婦が、緊張しているのか肩で息をしている。

「あっ!!あの人トイレの人。」

思わずそう叫んでしまった鴨居を、杉宮と梓が笑う。


ゆっくり、ゆっくりと新郎新婦が壇の方へと歩いていく。

来賓の中にはもう涙を流している人もいた。

その中でも一番鴨居の目を引いたのは、新婦側の席にすわる唯一の親族とその人の手にある遺影。

「なんかマサキさんも嬉しそうに見えるな。」

小さく杉宮が呟いたが、鴨居は聞こえなかったふりをした。

それは追求するべきでもないし、同意する必要もない、純粋に杉宮の口から零れ出た言葉だったからだ。

「あーあ、私も着たかったなウエディングドレス。」

そう言って梓が笑うと杉宮も笑った。




ちょっとしたハプニングで、新郎が壇の上にあがろうとした時につまずいて転んでしまった。

そんな新郎を笑顔で起こしてあげた佐野。


そんな姿を見て唐突に。

鴨居の中にいつまでも残って離れなかった疑問が少しずつほどけて、なくなっていくのが分かった。

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