放浪カモメ
快晴の空。

少しずつ暖かみを増しつつある空気がやけに気持ちが良い。

「それじゃ、行ってきまーす。」

元気に挨拶をすると、リビングから返事がした。

「行ってらっしゃい。なるべく早く帰ってくるのよ。」

その当たり前な光景が、メグはいつまでたっても飽きることなく好きだった。

ほんの少し前までは、鴨居に出会うまではこんなことすら日常ではなかったからだ。

「よし、行こうか。」

この日二人は初めてのデートに出かけることにした。

一番の目的は、生まれてくる子供の洋服などを買いに行くことなのだが、やはり二人の胸は高鳴るばかりだった。

「梅田まで行ってみようか。けっこう何でもそろってるし。」

メグにそう提案されるが、鴨居は頷くだけ。

なんせ大阪のことなど全くの無知であるから、メグに付いていくしかないのだ。

「じゃあ梅田にしよう。」

歩きだす鴨居。

その場に立ち尽くすメグ。

鴨居は不思議に思って振り向く。

「どうしたのメグ?」

何だかそわそわとするメグ。

手を前の方でもじもじさせては鴨居をちらちらと見た。

「……て。」

「て?どうしたのメグ?」

痺れを切らしたメグが少し声を大きくし言う。

「カモの鈍感!!私は手を握りながら行きたいの。」

言われてやっと気付く鴨居。

小走りでメグの所に戻る。

「ゴメンゴメン。さ、行こ?」

ほら。と言って鴨居は右手を差し出す。

メグはそっぽを向きながらもしっかりとその意外と大きな手を握り返す。

「へへ。カモの手あったかい。」

嬉しそうに頬笑んだメグ。

これからずっと、こんな日々が続いていくのだと思った。






そう、思っていた――



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