放浪カモメ
養父は鴨居が混乱しないように、ゆっくりと丁寧に状況を説明する。

「メグが産気づいたのはリビングで、妻が一緒にいたからすぐに気付くことができて間もなく救急車を呼んだ。」

養父の声が止まると病室の外から養母の泣いている声が寂しく響き渡った。

それを聞いていると認めたくないことを認めてしまいそうになるから、鴨居は耳を塞いでしまいたくなる。

「救急車も十分とかからずに到着して、近くの病院に運び込まれ帝王切開手術で出産をした。何の問題もなく分娩が終わる……はずだった。」

「はずだった……?」

頷いた養父はその時のことを思い出しているのだろうか、手がわなわなと震えている。

「メグは、産んだ後に部分癒着胎盤という珍しい疾患にかかっていたことが分かった。」

きっと養父は医師の説明を一つでも多くと頭に刻んだのだろう、聞き馴染みの無い医療用語がたくさん混じっている。

「胎盤を剥がす時にはどうしても大量の出血をするらしいんだ。帝王切開で出血していたところにそんな異常事態。医者にミスは無かったが、しかし出血性ショックを起こし……メグは。」

気丈に振る舞い、どうにか状況をカモに伝えることができた。

しかしやはり養父も限界だった。

声を上げて泣きながら、床を何度も何度も思い切り叩いた。

ゴツ。ゴツ。という鈍い音が鴨居の意識を更に遠退かせていった。






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