放浪カモメ
それは何でもないただの電話で、いつも通りにメグの体調を確認して、他愛のない話をするだけのつもりだった。
「あ、そだ。そろそろこの子の名前決めない?前に幾つか候補も出したし。」
そんな突拍子もない提案。
メグらしいな。なんて鴨居は笑う。
「男の子か女の子かもまだ分からないから、どっちにでも付けられるような名前だったよな。聖(ひじり)と歩(あゆむ)と葵(あおい)だっけ?」
「うん。でも何かありきたりなんだよねー。」
そう言ったメグ。
鴨居はありきたりって何だか自分に一番合う言葉だよな。と思い、思わず口に出ていた。
「ありきたりかぁ、オレの子供らしくて良いじゃん。」
「確かにそだね。」
二人は笑った。
すると急にメグが黙ったかと思うと、いきなり他の候補を出してきた。
「雛ってどうかな?」
「ひな?ひなってあのヒナ?」
自分の子供の名前が、鳥の赤子というのはどうなのだろうか。と初めは鴨居は反対だった。
しかしメグがその名前にしたい理由を聞いて、それがさも雛という名前を付ける為に二人の間に宿った子の様に感じたのだった。
「うん。覚えてるかな?私たち"放浪カモメ"の子供。だから雛。」
旅の途中の港で、一羽だけ飛ぶカモメを見てメグが言った言葉。
もちろん鴨居はそのことを覚えていた。
「うん、雛って良いね。すごく良いよ。」
「じゃあ、この子は雛に決定だね。」
その後も、記憶に残ることのない何気ない会話をして電話を切ったのだった。