放浪カモメ
無表情なまま杉宮は言う。
「カモ、もういいよ。今日はこれで帰ろう。」
そう言うと杉宮は席を立ち、財布から五千円札を取出しテーブルに置いた。
鴨居のおごりということだったのを杉宮は忘れていたわけではない。
ただ、今の鴨居に酒をおごられても気分が良くなることは無い。そう思っていたのだ。
杉宮は最後に小さく、今の自分ができる限りに優しく言う。
「カモ……もしも何かあったら俺に言えよな。」
「……。はい。何かあったら、先輩にいいます。」
そう取り繕って笑ってみせた鴨居。
お金を置いて、杉宮は込み上げる感情をどうにか抑えながら店から出ていった。
席に取り残された鴨居は杉宮の思いも知らず、二人の距離は徐々に離れていくのだった。