放浪カモメ
危機
それからしばらくの間、真希からの手紙を見つめながら、立ち尽くしていた鴨居の元に一人の女性が現れた。
鴨居をここに呼び出した張本人、大川美鈴だった。
「カモ君、久しぶり。真紀との話は終わったみたいだね。」
大川はいきなり現れると、当然のように鴨居の目の前に座った。
そして、注文を聞きに来た店員にストロベリーパフェを頼む。
鴨居は突然の登場にただ呆気に取られている。
「何でお前がここにいるんだよ…」
鴨居の言葉には明らかに怒りが込められ、その眼光には憎しみすら感じられた。
それに気付いていないのか、はたまた気に留めようとも思っていないのか、大川はいつもの口調で話始める。
「くすっ。とうとう"君"から"お前"になっちゃったねぇ。何でここにいるの?って私がカモ君と真紀を呼んだんだから、居なかった方が不思議でしょ?」
笑顔で言う大川。
しかし鴨居は笑う気などさらさら起きる気分ではない。
「何が楽しいんだ…?他人を平気で弄(もてあそ)ぶようなことして。」
鴨居の言葉に大川が答えるが、鴨居にとってはもはや理由などどうでもよかった。
ただ、山下を傷つけた自分への怒りと、それを平気で逆撫でする大川への憤りで頭がいっぱいになっていた。