放浪カモメ
そう言うと樹は実に楽しそうに、不良連中を殴り飛ばしていく。

多勢に無勢もなんのその、圧倒的な強さで樹は不良達を凪ぎ払う。

杉宮も、いつものチャラけた雰囲気が嘘のように軽快な身のこなしで、不良達を払いのける。

二人はあっという間に五人を地面にひれ伏させると、残った康太ににじり寄っていく。

「て、てめぇら……いったい何なんだよ?」

康太の言葉に樹が、不敵な笑みを浮かべながら返す。

「おいおい腐っても不良の端くれだろ、杉宮兄弟を知らないってのか?」


康太はその時、仲間内に一時だけ流れた噂を思い出した。

「ま、まさか……空手歴が無いにも関わらず、暇潰しに一度だけ出た中学の空手全国大会で3位になった弟の杉宮樹と……」

康太はいったい何故そこまで詳しいのか分からないが、杉宮兄弟の履歴を震えながら声に出した。

「関西で有名だった当時のフライ級の日本ランカーのプロボクサーを喧嘩で再起不能にした、っていう兄の杉宮要……?」

樹はにやりと笑い、康太に顔を目一杯近付けて静かに言い放つ。

「……ご名答。」

康太はまるで捕食者に睨まれた獲物のように身体を震わせ、その場に座り込んだ。




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