放浪カモメ

その日は何だか雨が降りそうで降らない、嫌な曇り空だった。

二つの講義を終えて、お昼までの時間をつぶそうと、ふらっと鴨居が立ち寄った佐野のゼミ部屋。

そこで目にしたのは、明らかに自分よりも大きな傷を負ってしまっていた杉宮の姿だった。

「おっすカモ。まだアザ取れてねーのな、だっせぇ。」

それでも杉宮は変わらない笑顔で鴨居を迎えた。

いつもと同じ軽い雰囲気にくったくのない笑顔、だけど違う。

本来なら杉宮が負うはずもない怪我を杉宮は負ってしまっていた。

包帯は杉宮の右腕に巻き付けられ、首からぶら下げるようにしている。


「杉宮先輩それ……」

鴨居は罪悪感に溺れそうになりながら、包帯につつまれている大好きな先輩の腕を見た。

杉宮はそんな鴨居の反応に少し困ったような顔をしたが、すぐに笑顔をとりつくろう。

「イメチェンだよ。似合うだろ…………ってダメ、だよな?」

あまりにも深刻に受けとめてしまっていた鴨居。

杉宮は、今の鴨居には冗談が通じないことを悟る。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。オレ、どうすれば…」


杉宮は謝って欲しかったんじゃない。

責任を感じてほしかったんじゃない。

杉宮が本当に欲しかったのはただ「次に何かあったら相談します」という鴨居のその一言だけだったのだ。


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