放浪カモメ
「何でカモが謝るんだよ。お前が俺の腕を折ったわけじゃないだろ?」
佐野はそんな二人の様子を静かに見守っていた。
煙草の煙が窓越しに見える灰色の空と同化していく。
「でも、やっぱりオレのせいで先輩が……」
鴨居が俯いてしまうと、佐野がゆっくりと席を立ちあがり、鴨居の元へと歩み寄る。
そして乱暴に鴨居の頭を掴むと、無理矢理に顔を上げさせた。
「……オマエさんはいったい何に対して俯いているんだ?杉宮に対する背徳感か、それとも傷ついた自分への慰めか?」
佐野の言葉に鴨居は胸が痛んだ。
「ああ、そうだ。お前さん自分でも気付いてるんだろ?今オマエさんが心配しているのは杉宮の怪我なんかじゃない。」
(やめてください……)
「オマエさんはただ――」
(分かってるから、それ以上言わないで。)
「これからの日々への不安や恐怖から目を背けようとしているだけにすぎない。傷付いた杉宮に甘えなければ今の現状を見つめることすら出来ないでいるだけだろう。」
鴨居の心臓はドクンドクンと鈍い音を立てた。
「せ、先生。なにもそこまで言わなくったって……」
黙っていろ。と杉宮を睨み付ける佐野。
煙草に火を点けると、ゆっくりと鴨居を見る。