放浪カモメ
「へっ……?」
あまりにも突然の言葉に鴨居はキョトンとしてしまう。
そんな様子を新田は真面目な顔で見ていると、意を決した。と言わんばかりに話しだす。
「もう一度言うよ。カモは馬鹿だ。きっと要先輩もそう思ってるはずだよ。」
新田の言葉に鴨居は顔が熱くなっていくのを感じた。
「そっ、そんなこと言われなくたって…分かって…」
新田はため息をついたが、その表情は柔らかく子供の悪戯を仕方ないと思う母親の様だった。
「ほら、分かってないじゃんか。」
そう言って新田は笑うのだった。
「カモ、よく考えてみなよ。どこの世界に信頼してもいない他人のために『自分の腕を犠牲にしてまで助ける人』がいる?『後輩に助けを求められたからって授業を抜け出して助ける人』が何処にいる?」
するといつの間にか雨は止んでいた。
しかし、まだ薄い雲が空を覆っていて光が差し込んではこれないようだ。
「つまり。要先輩にとってカモは『そうまで』して助ける価値のある友達なんだろ?」
鴨居は自分の情けなさを悔やんだ。
自分の打ち出した『友達の定義』に当てはまる人がすぐ近くに居たのに、気付かないふりをしていたことを恥じた。