放浪カモメ
しばらく佐野は鴨居をじっと見つめていた。

「ふーむ、しかし面白いなコイツは。ここまで一気に気の抜けるものなのかね?」

佐野は時折、鴨居をペンでこづいたり、持っていたアンパンで釣ってみたりした。

「何をしても反応無しか……おもしろいな、今度学会で発表しようかな。」

ぐたっとする後輩。

それをよく分からない方法で観察する先生。

そんなよく分からない状況に一緒におかれてしまった杉宮が一言。




「いや、そんな症状のやつそこら中にいるし。あんたただの英語教師だから、心理学的な発表とか無縁だし。」

杉宮の冷静な言葉に鴨居をこづくのを止める佐野。

「むっ……確かにそう言われてみればそうだな。」

「でしょ?」

ようやくこのよく分からない状況から解放されると杉宮が思うのも束の間。

「ふーむ、だがしかし面白いな。」

また楽しそうに鴨居をいじりだす佐野。

「先生仕事中でしょ?何してるんですか?」

呆れる杉宮。



佐野は打ちかけの論文をチラリと見て答える。

「いや、ただの息抜きだけど?」

それからも続く佐野の鴨居観察。

こづく。チョコで釣る。タバコを吹き掛けてみる(よい子は真似をしちゃダメだよ)。研究資料を背中に置いてみる。エトセトラ……エトセトラ……



そして杉宮は思うのだった……




「何故カモは拒否すらしない……?」







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