共鳴り
ここで良いわ、と彼女が言ったのは、事務所からちょっと離れた場所だった。


駐車場には嶋さんの車一台だけが置かれ、見上げたそこには明かりがぽつんとついたまま。


去っていくレイコさんを見送りながら、やっぱり首を傾げることしか出来なかった。







「お帰りー。」


明け方、笑顔の俺に眉を寄せたような顔が向けられたが、気にはしない。


ドアの前に座り込むこと小一時間、やっと部屋の主のご帰宅や。



「飲み会しようや、キヨ!」


家出野郎め、と言いながら、清人は諦めたようにドアを開け、俺を招き入れてくれた。


部屋はレイコさんとこと同じくらいに冷たいが、間接照明がない分、彼女の部屋より余計にそれを感じてしまう。



「しょうがねぇから付き合ってやるよ。」


そう言って、清人は俺に缶ビールを差し出してくれた。


ちょっとだけ心が軽くなれたような気がして、やっぱりコイツはすごいなぁ、って。



「なぁ、キヨ。
ちょっと一発、俺のことぶん殴ってくれへん?」


「…は?」


「俺、理乃のことマジで犯そうとした。」


言った瞬間、彼はさすがに驚いたとばかに咳き込んでくれる。



「おまけにレイコさんには振られるし、散々や。」


空笑いのままに言うと、頬にグーが押しつけられた。


で、ぐりぐりや。


ちっとも痛くなくて、なのに何でか泣きそうになる。



「お前が殴ってキレてくれな、誰が俺のこと怒ってくれるん?」

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