共鳴り
“当分”の言葉通り、清人は全く帰って来なかった。


それどころか携帯の電源まで切ってるし、これじゃ軽く行方不明や。


国光さんは「ジルが居ないよー。」と寂しそうやったけど、嶋さんは「そのうち帰ってくるだろ。」と楽観視。


清人に“逃げる”って選択肢がないことを、彼は知って言ってるんやろう。



「まぁ、ホントに帰って来なきゃ、ギンに首吊らせておびき出すけどなぁ。」


そう言いながら、嶋さんは笑う。


結局今も俺は、清人の存在の前では“銀メダルの二等賞”のままってことやし、言葉は冗談めいては聞こえない。


俺はつまり、人質ってこと。


そしてアイツは、俺がいる限り、嶋さんや組から逃げたりはしない、ってこと。



「俺がアイツに逃げろ、って言うたんかもしれませんよ?」


瞬間、ガッ、とボディーに一発。


何年経っても衰えず、恐ろしく重たい右フック。


俺は痛みの中で唇を噛み締めながら、舌打ちを混じらした。



「犬のくせに、舐めた口きくなや。」


そう吐き捨てる嶋さんと、横で何故か腹を抱えて大爆笑の国光さん。


あれからもう、5年や。


5年経っても、きっと10年経っても俺らはずっと、嶋さんにとっては犬やねん。


花穂ちゃんが死んでなかったら、どうなってたかなぁ、って未だに思う。

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