共鳴り
やっぱり毎晩のように、壁越しに理乃のすすり泣く声を聞いていた。


泣かせることしか出来ないなら、もう一緒に居ない方が良い、って何度思ったことか。


けど清人は、「レナのこと、泣かせることしか出来ねぇの。」と言いながら、それでもあの子と一緒に居た。


抱かないことと、それでも抱くことは、どっちが幸せなんやろう?


どっちがより相手のことを考えていて、そして自分の気持ちを量りにかけられるのか。


俺らが嶋さんの言う“操り人形の犬”なら、心なんかなくなってしまえば楽やのに。


生きるのが下手な俺らは、きっとロボットみたいになったらえぇねん。


この5年、いや、それよりずっと前から、もう痛み以外感じたことがないような気がするわ。



「一緒に死ぬか?」


「それ、俺にプロポーズしてるん?」


笑うと、清人も笑った。


俺らが死んで、一体どれだけの人が悲しんでくれるんやろう。


それよりきっとずっと、嘲笑う人の方が多い気がして、心底嫌になった。


そして何より、俺らにそんな勇気はないやろう、ってこと。


死ぬことがどうこうではなく、俺らは結局、残される側のヤツのことばっか考えてまうんやろうから。



「まぁ、俺らの無理心中なんてただのホモやんな。」


夢も未来も、とっくの昔に消え失せた。


心が軋む音も、雨音と同じくらいに聞き慣れて、失ったものの数さえもう、数えることをやめたんや。


痛みばかりが同化していくねん。

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