共鳴り
大丈夫か、なんて聞けなかった。


それに俺自身、全然大丈夫なんかじゃなかったし。


理乃は崩れ落ちるようにソファーに倒れ込み、顔を伏せて肩を震わせる。


伸ばし掛けた手を止め、悔しさと自己嫌悪の中で拳を作った。



「これでお前の望みは叶ったやろ?」


吐き捨て背を向け、シャツを羽織る。


仕事以外でセックスなんかしないと決め、この5年を生きてきたはずやったのに。


やのに、今までのどの女を泣かせることより、胸が痛かった。


誕生日なのに、生まれてきたことを喜べない。


俺が生まれたからオカンはあんな男と結婚して苦労して、理乃を傷つけ清人も苦しめて、そんな俺はおったらあかんねん。



「どうせ当分俺のこと無視するつもりやろ?
面倒事なんかダルいだけやし、俺、女んとこでも行くわ。」


そのまま俺は、理乃を残して部屋を出た。


夏なのにひどく冷たい風が吹き、彼女の熱が消えていく。


情けなくて、虚しくて、頼りない面影ばかりを引き寄せ抱き締める、夜の闇。


湿り気を帯びた夏の匂いが微かに鼻をかすめ、きらきらと笑ってたあの頃の理乃をまた思い出した。





もう戻れない。



あの部屋にも、
理乃の元にも。





たかがセックス、されどセックス、って感じやろうか。


みんなみんな、こんな無意味なことに翻弄され、築いたり、壊したり。


泣きそうで、でも泣けなくて、顔を覆って込み上げるものを必死で堪えた。


消えてなくなりたい清人の気持ちが、今なら分かるようや。





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