共鳴り
皮肉混じりに言ってやると、またガッと蹴り飛ばされた机が揺れ、グラスが倒れた。


ポタリ、ポタリとレモンサワーが床に垂れ、そのまま机の上を転がっていったグラスが落ち、パリンと弾ける。


そんな様を見つめながら、あーあ、と思った。


形あるものはいつかは壊れる、なんて言うけど、目に見えない、形のない関係だっていつかは壊れるねん。


この世の全ては必ず壊れるようになっている気がして、ゆっくりと、窓の外へと視線を滑らせた。



「そんなんやから血の繋がった息子にも相手にされへんねん。」


言ってやると、嶋さんはまた舌打ちをし、煙草を咥えてため息を混じらせた。


今の俺らにキレたってどうにもならんってわかってるんやろう。



「俺、帰る。」


「…どこ行くんだよ?」


「アンタの居ないとこ。」


それだけ言った清人はさっさと立ち上がり、すぐに帰っていってしまう。


俺は肩をすくめ、嶋さんは馬鹿野郎が、と呟いた。


この人が、俺らをどこか自分の息子の姿と重ねているのには気付いている。


懐きもしない、それどころか反抗するしか知らん可愛げの欠片もないような俺らやのに、嶋さんもどこか寂しいんかなぁ、って。


ふと、好きな子を虐める男の子の話を思い出し、どうにかして俺らに相手でもして欲しいのかなぁ、と思うと、何故だか笑えたんや。


憎くて恨んでさえいるはずやのに、本当に殺してやろうと思えば隙はいくらでもあるはずやのに。


それでも俺らがこの人を本気で殺さへんのは、そういう人間的な部分をたまに見せるからでもあるねん。


それが作戦とかやったら、ホンマ敵わへんけどね。

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