共鳴り
これは多分、振られたってことやろう。


肩をすくめながら苦笑いを混じらせるように俺は、コーヒーに口をつけた。



「俺みたいな良い男が口説いてんのに。」


「アンタは全然良い男じゃないでしょ?
さっさと理乃ちゃんが待つ自分のうちにでも帰ったらどう?」


「うわっ、嫌なこと言う女やなぁ。」


今日もこの部屋には、ジョン・レノンが響いていた。


西日のオレンジに滲み、部屋が淡く染められている中で、彼女はやっぱり上機嫌で口元を上げている。


手元にあった小説本を持ち上げ、レイコさんはそれへと視線を落とす。


いつものように、古い洋書の物語。



「ねぇ。」


ふと、思いついたように彼女は俺へと視線を戻した。



「付き合う、って何?」


笑ってしまう。


あまりに真剣にすっとぼけたことを聞いて来るのが、清人みたいや。



「俺にもよくわからへんけど。」


「…わかんないのに付き合おうって言ったの?」


「そうやね、俺は馬鹿やから。」


また笑ってから、「レイコさんは誰かと付き合ったことないん?」と問うた。



「ないわよ。」


「人生で一度も?」


「えぇ、人生で一度も。」


憐れむわけでもなく、可哀想な人なんやろう。


寂しさを含む冷たい瞳も、他人を受け入れたがならない綺麗な指先も、やっぱり嫌いにはなれへんかった。

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