共鳴り
「アンタ、本当に家賃取るわよ?」


「払ったら一緒に住んでえぇってこと?」


目を輝かせた俺に、彼女は呆れた様子で肩をすくめる。


相変わらず俺はレイコさんのこと適当に口説くし、そんで怒られて終わり、みたいな。



「迷惑だからさっさと仕事行きなさいよねぇ?」


「レイコさんは?」


「あたしはお昼からよ。」


そのくせ嶋さんと一緒で早起き好きやなぁ、とは言わへんかったけど。



「なら、俺まで起こさんといてや。
寝たばっかやったし俺、もう一眠りするわ。」


「ご飯、どうせ食べないんでしょ?」


「んー。」


俺はレイコさんちで、コーヒー以外を口にしたことがない。


それは食べ物もやけど、理乃の飯以外はどうにも、食べる気にならへんねん。


例え冷めてても、見るからにレイコさんのが料理上手やったとしても、この5年、一度も食べたことはない。


だから彼女も、それが暗黙の了解のように、ひとり分しか作らへん。



「おやすみー。」


そう手だけをヒラヒラとさせ、俺はまた、大きなベッドにひとり突っ伏した。


理乃のことを考える度、未だにどうしようもないものに覆われている自分に気付く。


それが嫌で嫌で堪らなくて、考えてるだけで苛ついた。


幸せに出来ないから手放してやったのに、それでもまだ、俺の中に記憶としてこびりついたままのもの。

< 224 / 339 >

この作品をシェア

pagetop