共鳴り
刹那、俺の携帯がポケットの中で、着信の音を鳴らした。


その時やっと、女と約束があったことを思い出したけど、こんな状態で行けるはずもない。


レイコさんは視線を逸らし、出なさいよ、と言うので仕方なくそれを持ち上げてみれば、“清人”と表示されていて驚いた。


どうしようかとは思ったけど、俺は通話ボタンを押した。



『なぁ、俺お前の車に煙草忘れてなかった?』


「あぁ、あったで。」


まるで何事もなかったかのような電話口の向こうの声に、いたたまれなくなる。


清人はいつもこうやって、俺に隠して過ごしていたんやろうなぁ、って。



「後ろのシートに転がっててな。
もっと早く気付いてたら届けてやれたんやけど。」


『や、良いよ。
新しいの買ったし。』


どうしようかと思ったが、俺は切り出した。



「嶋さんと何の話やったん?」


『ん?
別に普通に仕事のことだけど。』


やっぱり清人は先ほどのことが嘘であるかのように、普通に話す。


そっか、としか言えへんかった。



「それよりお前、車どうすんねん?」


『さっき山口さんに会ってさ、ついでに乗っけてくれるって。』


やっぱりそっか、としか言えなくなる。


一瞥したレイコさんは、いつの間にか新しいコーヒーを淹れてくれていた。



「それより話あんねんけど。」

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