共鳴り
居たことには驚いた。


レイコさんの姿はないし、多分送って戻って来てからずっと、この人はここでひとり座っていたんやろう。


ニコチン中毒のくせに、と思ってみれば、彼の瞳がこちらへと向けられる。



「…意識は?」


嶋さんは、首を横に振った。


現状に変わりはない、ってことやろうし、誰のものともわからないため息が、静かすぎる廊下に消える。



「…何であなたなんかを庇ったんですか?」


顔を向けてみればレナちゃんが、少し向こうから嶋さんを睨み付けていた。


彼は無表情を貫いたままで、そんな嶋さんに彼女は唇を噛み締めた。



「やめぇや、レナちゃん。」


俺は制止の言葉を口にする。


誰かを責めたって何もならないし、今はそんな場合でもない。


何より嶋さんだって、多分思うところはいっぱいあるはずやねん。



「嶋さんは無事やったし、アイツも生きてんねん!
清人が庇うた命に対して、そんな言うなや!」


レナちゃんがそう言いたい気持ちだってわからないわけではない。


嶋さんのこと恨むのも当然やし、俺だってその気持ちが全くなくなったかと問われれば、そうとも言い切れない部分だって確かにある。


それでも、清人が助けたことに変わりはないんや。



「…キヨはそういう男やねん…」


誰かのためにしか生きられなくて、めっちゃ馬鹿で、でも優しくて。


いっつも自分の気持ち押し殺して、ひとりで苦しんで、なのに俺は気付いてやれなかった。


無意識のうちに唇を噛み締めると、彼女の瞳は微かに涙で滲み始める。



「正直参ってんだよ、俺も。」

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