共鳴り
「そんな場合ちゃうやん!
早く探さんと、取り返しつかんことに…」


『うるせぇんだよ、馬鹿野郎!』


今度遮られたのは、俺の言葉だった。


ぐっと唇を噛み締めると、電話越しに彼はため息を混じらせ、口を開く。



『あの傷で、一分一秒違うからってどこに行けるわけでもねぇ。
それよりてめぇは俺らがそっちに行くまでに、その頭冷やしとけ!』


そして苛立ち紛れのように、通話は強制的に終了された。



「…クソッ…!」


落ち着くんや、俺。


この時間、唯一の出入り口はあの正面玄関しかないし、なら行けば絶対に誰かに見つかるやろう。


スタッフ専用の出入り口だって、警備員おるの知ってるし、出られるはずがないことは、誰が考えても分かる。


だったらまだ、アイツはこの建物の中ってこと?


考えを巡らせていると、バンッ、とドアが開いて、少し息を切らした嶋さんと、そして国光さんの姿。



「本当にもぬけの殻だ。」


国光さんが驚いたようにまず漏らす。


が、俺としては、嶋さんが走ってきたのだろう姿を見るのなんて初めてだと思っていた。



「国光はここに居ろ。
万が一にも戻ってくる可能性はある。」


はい、と彼は言った。


そして嶋さんは俺に向け、「探すぞ!」と早口に言う。



「…けど、どこに行けば…」


「上しかねぇだろうが!」


その言葉に、弾かれたように顔を上げた。


何でそれに気付かなかったのだろうと、嶋さんに向けて強く頷き俺は、きびすを返す。

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