共鳴り
俺は財布を取り出し、札の一枚を彼女に差し出した。


が、当然のようにそれは受け取られることはない。



「けど、レナちゃんに奢ってもらうわけにはいかんよ。」


「奢るってほどの金額じゃないじゃん。」


「でも、清人が大事にしてる子に金出させるほど、俺アホちゃうよ?」


言うと、少し驚いた顔した彼女は笑った。


そして、「じゃあまた今度奢ってね。」と言う。


俺は肩をすくめた。



「つーか、そこで金のことで喧嘩すんなよ。」


清人が笑うから、俺も仕方なく笑う。


レナちゃんが居る時だけは、彼の瞳は悲しそうではないらしい。



「俺、もう用事済んだし、あとはふたりで居りぃ?」


「あぁ、じゃああたしも一旦帰るよ。」


シャワー浴びたいし、と彼女は言う。



「なら、送ってくわ。」


「良いって、そんなの。」


「んでも、帰るんやったらついでやん?
タクるん勿体ないし、気にせんでえぇやん。」


レナちゃんは少し困った顔をしていた。


けれども俺は、どうにもこの子には今までのこともあり、申し訳なくて気を使ってしまうんや。



「レナ、送ってもらえば?」


「…いや、でもさ…」


「陸うるさいし、素直に甘えとけば良いじゃん。」


渋々と言った様子の彼女は、結局、わかった、と言った。


清人の言うことなら素直に聞くところが可愛いと思う。

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