共鳴り
彼、というのは嶋さんのことやろうけど。


レイコさんがあの人をそんな風に呼ぶなんてやっぱり初めてで、俺はその顔を見た。



「当分会えなくなるだろうし、最後に挨拶でもしといてやろうかと思ってな、って。」


嶋さんは、俺らと別れてからパクられるまでの数時間のうちで、唯一レイコさんだけに電話を掛けたそうだ。


元嫁でもなければ息子たちでもなく、他のどの女でもない。


たったひとり、レイコさんだけだったそうだ。



「俺もムショ出る頃にはジジィだしよぉ。
老後も地味に心配だし、戻ってきたらお前、俺と結婚するか?」


そして、そんな風に言ったらしい。


嘘だとしか思えなかったが、でもレイコさんの顔に変化はなかった。



「…で、レイコさん何て答えたん?」


「嫌よ、って。」


極上の笑顔で彼女は答えた。



「本当に勝手な人だと思わない?
あたしの人生勝手に決めないでほしいし、第一そんな理由じゃ話にならないわ。」


「じゃあ、どんな理由やったら良いん?」


「どんな理由でも嫌よ。」


確かにレイコさんらしいといえばそうやけど、でもちょっと嶋さんが不憫に思う。


つーか、もう意味わからへん。



「そしたら嶋さんは?」


「なら良いよ、って。」


「…もしかして、それで終わり?」


「えぇ、そうよ。
じゃあ元気で暮らせよな、って電話が切れたの。」


ね、勝手でしょ?


そう付け加え、彼女は俺に同意を求めた。

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