共鳴り
笑う俺に不貞腐れたように彼女は、息を吐いた。


そして、昔話でもしましょうか、と言う。



「醜いアヒルの子の話よ。」


生まれた時から父親が居ない家庭で育った女の子がいた。


名前は――麗子。


母親と、そして5つ上に兄がいたそうだ。


母親は冷たかったけど、兄は彼女を溺愛していて、だからそれなりに幸せだったという。



「貧乏とまではいかなくても、生活は苦しかったんでしょうけど。
でも、彼女は何不自由なく育ったわ。」


レイコさんが他人のことのように話すから、だから俺も黙って耳を傾け続けた。


息を吐く度、彼女の瞳が僅かに揺れる。



「兄は中学卒業と同時に家を出たの。
まだ幼かった彼女は、それから母親とのふたり暮らしになったのよ。」


そこから徐々に歯車が狂い出したのだと言う。


麗子という少女は、母親の収入源を知らなかった。


男が居ることは知っていたけれど、それは多分、父親とは違う人。


同時にそれは、今まで兄が自分に隠してくれていたのだろうとも思ったそうだ。



「だからって何かを知りたかったわけじゃない。
学校に行けば友達はいるし、普通の家庭だとは思わなかったけど、そんなことを気にするほど大人でもなかったのよ。」


麗子は少し内気な子だった。


そして、ただ寂しいな、と思っていたらしい。


何をしているのかわからない母親と、そしてたまに会いに来てくれる兄。



「確か、彼女が10歳になった頃だったかしら。」

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