共鳴り
母親は、目に見えて変わり始めた。


家に帰って来ないことが増え、食事さえも作らなくなる。


思い出したようにお金を置いてくれる以外、帰って来ても寝てばかり。


酒を飲んではいらいらして、当たるように殴られ、彼女は次第に母親に対し、恐怖心を抱くようになった。


麗子は、なので今も酒を飲む人間は嫌いで、自分も一滴も飲まないのだという。


兄にはとてもじゃないけど言えない。


心配なんてさせたくなかったし、何をどう言えば良いかもわからなかった。


だから小さな胸の中に仕舞い込み、必死で耐えていたのだ。



「兄は18になってすぐ、結婚したの。
大好きだったお兄ちゃんがパパになるって聞いて、喜びよりもショックが大きかった。」


お兄ちゃんにまで見放される、と思ったそうだ。


虐待の傷があっては学校に行くこともままならず、次第に休みがちになった。


元々内気な性格だった彼女は、当然のように不登校になっていく。


家に居るから母親と顔を合わせてしまい、また殴られるという悪循環にもなっていた。



「ある日、家に知らないおじさんが来たの。」


母親とその男はこそこそとふたりで耳打ちし合い、そして目の前で札が横に流れて行く。


一体何をやっているのかと思っていると、母親だけが部屋を出て行った。



「キミは可哀想な子だね。
でも、おじさんが優しくしてあげるよ。」


覚えているのは、臭い息。


痛みと恐怖の中で震えながら涙し、目を瞑って耐え続けた、地獄のような時間。


麗子は母親に売られたのだ。


金を稼ぐために、まだ小学生だった彼女は、愛も恋も知るより先に、犯された。

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