共鳴り
ワックスが剥げ、頼りない光しか差し込むことのない日当たりの悪い部屋には、真っ赤な色が広がっていた。


先月父親になったばかりの兄、そして自分にも優しくしてくれたお姉さんのような奥さんと、まだ見たことがない子供。


麗子は自らの所為で、全ての人の人生を狂わせたと思った。


被害者である母親は死んだ。


加害者は愛すべき兄であり、どちらも麗子にとっては血の繋がった存在だった。



「怖くなって逃げ出したのよ、彼女。」


行く宛てはない。


それでも、ただ怖くて逃げたのだ。


地元どころか学校までの近所しか知らなかった麗子は、それでも走った。


何かに追われるように、何もかもを振り払うように、必死で逃げたそうだ。



「なのに、まさか自分がヤクザに拾われるなんて思わなかったけど。」


目を覚ました時、知らない部屋にいたのだと言う。


白を基調とした中で、コーヒーの香りが漂い、知らない男が傍に腰かけている。


ここがどこなのか、彼が誰なのかなんて聞かなかった。



「アンタもあたしを買ったの?」


諦めにも似た気持ちで聞いたそうだ。


なのに男は、ひどく悲しい目をして自分を見ていた。


頭を撫でられ、初めてのそれに、気付けば彼女は涙を零していたらしい。


嬉しさでも安堵感でもなく、悲しみでも寂しさでもない、涙。



「それが嶋さんだった。」

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