共鳴り
「お前がテレビなんか観てる姿、初めてじゃないか?」


このままではダメだとは思ったものの、だからって何をどうしようか、なんてことは考えもつかなかった。


何より自分は、外の世界を知らなすぎる。


だから数年振りにテレビを観たのだ。



「ねぇ、あたしは一生ここでこんな風に暮らすの?」


テレビの画面を見つめたままに問うと、彼は何も答えない。



「…外に、出る気になったのか?」


「わかんない。
でも、何かしたいと思ってるの。」


そうか、とまた、嶋さんは押し黙る。


ふたりの会話というのは、いつもこんな感じ。


一言二言で大抵の会話は終わってしまうし、互いにそれ以上は何も言わない。


でも、麗子は珍しく、再び言葉を手繰り寄せた。



「…ここ、出る。」


そうか、とまた同じ言葉を聞いた。


そこに感情の起伏はなく、事務的な会話に聞こえる。


確かに嶋さんには感謝しているし、多分自分は甘やかされているのだろうということもわかっていた。


別にここを出なくてもどうにでもなるのだろうけど、でも、中途半端は互いに好まない。



「お前に何が出来る?」


「何も出来ないわ。
でも、男が何をすれば悦ぶかは知ってる。」


辛いわけでもなく、そう思う。


と、いうか、それ以外は何も知らないのだ。


学校での勉強も、社会そのものも、他人と関わるということも。

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