共鳴り
生きることに執着がないから、死ねと言われたら死んでいたかもしれない。


他人に興味がないから、もちろんそれは、愛にも恋にも興味がないということ。


兄も兄の家族もどうなったのかはわからないが、空っぽな自分でも、そんなことを想う時だけ胸が痛んだ。


胸が痛むと、彼女は決まって嶋さんのところに行く。


それが例え何時だろうと、電話をすると必ず、彼は麗子と一緒に眠ってくれた。


血の繋がりにもセックスにも意味はないけれど、嶋さんとのそんな一時だけは、安らぎに似たものを感じていたのだろう。


ただ、依存のようなものだろうけど。







「これからは少し、寂しくなるのかもね。」


全てを話し終え、彼女は静かに息を吐いた。


いつの間にか傾き始めた陽はオレンジに染まり、窓枠から射し込んでいる。


俺は言葉を持てず、ただ悲しいと感じていた。


同情するわけでもなく、憐れむわけでもなく、悲しくて堪らないな、と。


だってここにもひとり、身勝手な大人に振り回された子がいるんやから。



「生きててくれてありがとう、レイコさん。」


言った俺に、彼女はゆっくりと視線を移してくれる。



「優しさを忘れんでくれてありがとうな、レイコさん。」


人というものが、どれほど怖かったろう。


空虚やと言いながら、それでもこの人は優しかった。



「やから、醜いなんて言ったらあかんよ。」

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