共鳴り
彼女は少しばかり口元を緩めて見せる。



「嶋さんって、この世界で唯一、あたしを抱かない男なのかもね。」


そして寂しげに漏らされた。


あの人の、今まで知らなかった一面を垣間見て、そしてレイコさんの痛みを知った。



「アンタたちは馬鹿だった。
でもね、不思議と嫌いにはなれなかったわ。」


俺と、そして清人のことやろう。



「正直鬱陶しいと思ってたわ。
なのに、気付けば色んな事を教えられてたんだと思うの。」


「…色んな事?」


「人を信じたり、誰かを愛したり。
少しだけ、羨ましいとも思ってた。」


それは、いつもの冷たさを含んだような口調ではなかった。


どこか愛しいものを思い出すような、あたたかさを帯びた瞳が手元のカップを滑る。



「清人くん、だったかしら?
ここに来る前、会ってきたのよ。」


「うん。」


「そしたらあの子、何て言ったと思う?」


思い出したように笑い、彼女は問う。


俺が首を横に振ると、



「旅行に飽きたらいつでも戻っておいでよ。
そしたらまた、俺らと遊ぼうよ、って。」


そう言ってたわ、とレイコさん。


清人らしくて笑ってしまう。


マサもアユも俺も理乃も、レイコさんでさえも、アイツにとってはみんな同じなんやろう、って。

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