共鳴り
話は進んで、花穂ちゃんが死ぬ少し前、春になったばかりでまだ肌寒い頃、突然一本の電話が入った。



「…倒れたって、どういうこと?」


相手は園に通ってくれてるボランディアのおばちゃんで、園長先生が倒れたという旨やった。


みゆき園は最初に言った通り、ほとんど園長先生がひとりで切り盛りしてるようなとこや。


ましてやあの人はもう60代やし、休みなく働いてたから、そら体にガタのひとつがきてもおかしくないやろうし。


で、焦ったように病院に行ったら、意外にも元気そうでコケたんやけど。



「…先生、ビビらせんなやぁ。」


「倒れたワシの方が驚いたわ。」


わっはっは、と彼は笑っていた。


それでも、ちょっと見ない間に随分疲れたような顔になってて、乱れた白髪混じりの頭に寂しさを覚える。



「もう年なんやし、無理したらあかんやん。」


「陸もすっかり大人になって。
お前を送り出して何年になるかなぁ?」


切なさを含む会話やった。


まるで死ぬ間際の年寄りみたいで、こんな園長先生嫌やってん。



「しみったれた話すんなやぁ。
先生にはこれからも元気でおってもらわな、俺だけやなくてみんなが不安になるやん。」


みんなか、と彼は漏らす。


よく晴れた、桜が3分咲きくらいの頃やった。


抜けるような青空が広がる窓の外に視線を移しながら、彼は悲しそうな目に変わる。



「園は来年いっぱいだよ。」

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