月のかけら
「それじゃ行こうか」

ふたりは駅を出発すると、鼻歌混じりに
線路沿いを南下しながら歩き始めた。

最初の踏切を超え、そのまま真っ直ぐ百
メートル程進むとT字路にぶつかる。

右に曲がれば緩やかな上り坂が続き、そ
の先には五月になると薔薇の花が美しい
〜ばら園〜があった。

夏於と高野が夜の散歩をするようになっ
てから、もう随分と経つが、
〜ばら園〜には必ず寄っている。

ふたりのお気に入りの場所だった。

「高野、月は何で欠けたり満ちたりする
のか知ってる?」

ゆっくりと前を歩く夏於が問いかけた。

「潮の満ち引きと関係があるんじゃなか
ったかなぁ」

高野は夏於の背中に向かって答えると、
月を見上げて一瞬、違ったかな?
と云う表情を浮かべた。

夏於はそんな高野の様子がわかるらしく
何やら楽しそうだ。

「ダイエットしてるのサ」

「え?」

「だから、ダイエットしてるんだよ」

「何だよ、それ」

高野がいぶかしむ。

「今夜は満月だけど、そのうち段々と欠
けてくるだろう。あれは、月がまんまる
のまんまじゃイケナイと思ってダイエッ
トしてるんだよ。細くなって行くのはい
いんだけど、痩せ過ぎた頃、ようするに
三日月になった頃にリバウンドが始まる
んだ。それでまた太っちゃう。これはマ
ズイと思ってまたダイエットに励むんだ
けど、痩せすぎるとリバウンドが来ちゃ
う。そのくり返し」

「嘘だよ、そんなこと」

「ほんとだよ、知らないのか?」

夏於はニヤニヤ笑っている。

「知らないよ、夏於のまた創り話だろ」

「そんなことないよ。今日、図書館で見
た絵本にそう描いてあったんだ。だから
ぼくの創り話じゃないよ」

「何だ、絵本の受け売りじゃないか」

「そうだよ。でも、面白いだろ」

「そうかなぁ」

高野はどこか釈然としなかった。


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